Interview

麹屋はなぜ、味噌づくりを教えるのか。1868年創業、横浜・菊名「小泉麹屋」五代目に聞く

現地取材

神奈川県横浜市港北区の小泉麹屋を訪ね、五代目の小泉聡さんに直接お話を伺って書いた記事です。

味噌の仕込みに使う米麹

麹を買ってきて、家で一年分の味噌を仕込む人がいます。麹は、蒸したお米や麦に麹菌を育てたもので、味噌や醤油、甘酒のもとになります。

横浜市港北区菊名の「小泉麹屋」は、その麹をつくって売る麹屋で、1868年(明治元年)に創業しました。一度は店を閉じ、15年後に五代目の小泉聡さんが再開しました。 いまは店での味噌講習会を月に25日開き、年間およそ3,000人に味噌の仕込み方を教えています。

麹屋が、なぜ味噌づくりを教えるようになったのか。小泉さんに、店を開け直した経緯と、麹を育てる部屋、麹室(こうじむろ)での温度と湿度の見方を伺いました。

菊名の畑と、農閑期の麹づくり

——菊名で麹屋が始まったころ、このあたりはどんな土地だったのでしょうか。

昔は、このへんは一面の畑だったんです。うちも、もとは農家です。

冬の農閑期に、昔はどこの家でも一年分の味噌を仕込んでいました。そのときに麹が要るでしょう。それで、収穫しても売れなかった割れたお米、くず米をみんながうちに持ってくる。それを麹にしてお戻しして、手間賃をいただく。この地域の農家を取りまとめて麹にする、地域の麹屋さん。それが始まりです。

うちの父親の代までは、まだその仕事をやっていました。それが農家がほとんどなくなって、このままじゃダメだというので、本格的に味噌をつくり出したのが父の代です。

横浜市港北区菊名の小泉麹屋
横浜市港北区菊名の小泉麹屋

一度閉じた麹屋を、もう一度開けた理由

1983年、四代目が急逝し、小泉麹屋は店を閉じました。小泉さんが高校に入学した翌月のことです。

——家業を継ぐつもりは、もともとあったのでしょうか。

あとを継ごうと思って、東京農大の付属高校に入ったんです。でも入学して1か月で父親が亡くなって、会社を一回閉じた。すっかりやる気をなくして、21世紀が目の前なのに今さら麹屋はやらないだろう、と思っていました。

大学を出て、不動産の営業マンになりました。30歳までに独立すると決めていたけど、営業マン同士の戦いがすごく厳しくて、ここで生き残るのは無理だと身に染みた。競争の少ない業界はないかと考えていたら、ある日、父親が枕元に出てきたんです。パッと目が覚めて、「あ、麹屋があるじゃん」と。調べたら、横浜に麹屋は一軒しかなかった。正直に言うと、始まりはそこなんですよ。

五代目の小泉聡さん
五代目の小泉聡さん

店を閉じてから15年後の1998年、小泉さんは小泉麹屋を再開します。

——一度手を離れた技術は、どうやって取り戻したのですか。

母が、麹室や釜をとっておいてくれたんです。それと、父と一緒に仕事をしていた叔父がすぐ近所にいた。翌朝すぐに会いに行って「もう一回やろうと思うんだけど、教えてもらえませんか」と言ったら、涙ぐんでいましたよ。

周りには、100人中100人に反対されました。それでも当時のお客さんの名簿を見つけて電話したら、10件かけて10件とも覚えていてくれて、「頑張れ」と言ってくれた。これはいけるぞ、と。

1998年には、手づくりのホームページで通販を始めました。マスコミに拾われたのもあって、一晩で200件とか注文が入った。あれがなかったら、やめていたかもしれないです。

麹室で見ている、温度と湿度

麹菌が元気に育つ温度帯を、手で示す小泉さん
麹菌が元気に育つ温度帯を、手で示す小泉さん

——麹屋の技術は、具体的にどこに表れるのでしょうか。

温度管理と湿度管理。これに尽きます。

お米を水に浸ける時間からして、毎回変わるんです。台風がたくさん来た年、収穫の時期、取れた地域で、同じお米でも水分が違う。浸ける時間が変われば、蒸す時間も変わります。

麹菌は、ある程度水分があったほうがよく育つ。でも多すぎると、お米の表面に水滴が出る。汗をかくって言うんですけど、ベチャッとなって、菌がつかない。温度も同じで、麹菌が元気に育つ温度帯を超えると汗をかくし、届かないとまったくつかない。その温度と湿度を、常に見ていないといけないんです。

——その温度帯のなかでも、狙うところはあるのでしょうか。

安全なところでやれば、麹にはなるんです。アマチュアならそれでいい。

でも、プロである以上、それは嫌なんですよ。夏でも冬でも、上の限界を越えないぎりぎりのところで勝負する。一歩間違えると、もう抜け出せなくなる。怖いから安全なほうでやるかというと、それはアマチュアの仕事です。菌のつき方が変わるから。そこがいちばんきつくて、いちばん気を使うところです。

手でほぐす米麹
手でほぐす米麹

——仕込んでから、どのくらいの間隔で麹に手を入れるのですか。

だいたい9時間おきくらいですね。温度が上がってきたら、全体をほぐして菌を回す。手を入れると温度が落ちて、また上がってくる。今度は麹蓋(こうじぶた)という浅い箱に小分けにします。大きい塊ほど熱を持つからです。朝早く始めれば、手を入れるのは朝と夕方の繰り返しで済みます。

——季節によって、気をつけることは変わりますか。

冬は、室の扉が少し開いていただけで温度が落ちるから、しっかり室を温めます。

夏は今、暑すぎるし湿気もありすぎる。山にした麹を毛布で包むとき、真ん中は熱がこもって一気に進むから、周りだけ包んで上は開けておく。熱を逃がしてあげるんです。

室は地下にあるので、大雨が降ると水が出て、温度が下がる。天気でも、常に気を使う仕事ですね。

月25日の味噌講習会と、学校での味噌づくり

味噌講習会で、仕込みの手順を説明する講師
味噌講習会で、仕込みの手順を説明する講師
塩と合わせた米麹に、つぶした大豆を混ぜ込む
塩と合わせた米麹に、つぶした大豆を混ぜ込む

——麹屋が味噌づくりを教えるようになったのは、どうしてですか。

麹なんか、簡単には売れないですから。ここは一応都会で、街のなかに麹屋なんてない。味噌を自分でつくる人が世の中にいっぱいいるのは知っていたので、使い方を教えてあげれば使う人はいる、と。それで再開してすぐ、1998年ごろから始めました。

今は講師が3人いて、月に25日でいったん止めています。対面で年間3,000人くらい。それを20年以上続けてきました。

講習会では、麹と煮た大豆、塩を手で混ぜ合わせて味噌を仕込み、容器に詰めて持ち帰ります。公式サイトによると、定番の米味噌は3kgを仕込んで5,150円です。

——参加された方からは、どんな声が届きますか。

小さい子どもがいる人が多いんです。子どもがお味噌汁を嫌いだったのに、自分で仕込んだ味噌だと「おいしい」と言って食べるようになった、という人が多い。大人は事前の情報で味を決めてしまうけど、子どもは食べておいしいかどうかだけで言うから、嘘がない。嬉しいですね。

——店の壁には、小学生からの手紙がたくさん貼られていますね。

小学3年生の国語に「すがたをかえる大豆」という授業があって、その体験学習で味噌をつくるんです。5年生の家庭科では、ご飯とお味噌汁の調理実習のお味噌から仕込む。学校に呼ばれるのは、ほとんど3年生と5年生です。

嬉しかったのは、ある先生の話です。自分が小学3年生のときに味噌づくりをやって、楽しくておいしかった。大人になって先生になって、自分の生徒にもやらせた、と。続けていると、そういう人も出てくるんですね。

講習会で仕込んだ味噌は、この容器に詰めて持ち帰る
講習会で仕込んだ味噌は、この容器に詰めて持ち帰る

何でも麹にする麹屋と、100年続く家の味噌

麹の話をする小泉さん
麹の話をする小泉さん

——いま、どんな麹をつくっているのですか。

米麹のほかに、小麦麹、大麦麹、もち麦麹。胚芽米や玄米にもつけています。大豆につけた豆麹も、今試験中です。

どこの麹屋も、うちの麹はこれ、と決まっていて、ほかのものには手を出さない。歴史と伝統と、代々引き継いできたものが多い会社には、それができないんです。うちは一回潰れた会社だから、なんでもいい。そうしないと生き残れなかった。何にでも麹菌をつけて育てちゃう。それがうちのメリットですね。

——これから目指していることを教えてください。

うちは、再開してから100年続く会社を目指しているんです。おばあちゃんとお母さんと娘さんが30年ずつ味噌を仕込んでくれたら90年。あと10年足せば100年。その家のお味噌が、3世代で100年続く。

規模は大きくならないです。それでいい。手づくりで安心して食べられるものを届ける、恥ずかしくない仕事をしている。働く人にもそこを分かってもらって、正々堂々といい仕事をしようぜ、とやっていきたいですね。

——最後に、麹を初めて使う人には、何から勧めますか。

塩麹ですね。麹と水と塩さえあればできます。それで肉や魚を料理してもらうと、間違いなくおいしくなる。これがいちばん分かりやすいです。あとは甘酒。炊飯器があればつくれて、砂糖を入れずにこんなに甘いものができるのかと、たぶんびっくりすると思いますよ。


麹が手に入ったら、まずは塩麹を仕込んで、肉か魚を漬けてから焼いてみてください。小泉麹屋の店舗とオンラインショップでは、生の米麹のほか、仕込み済みの塩こうじも買えます。小泉さんが初めての人に最初に勧めている使い方で、麹と水と塩だけで料理の味がどう変わるのかを感じることができます。

【小泉麹屋】 住所:神奈川県横浜市港北区菊名5-24-25 購入できる場所:店舗、公式オンラインショップ 公式サイト・オンラインショップ:https://www.koujiya.com/ 味噌講習会のご案内:https://www.koujiya.com/workshop/ Instagram:https://www.instagram.com/koizumikoujiya/ 取材:2026年10月2日

よくある質問

小泉麹屋は、いつからある麹屋ですか?

1868年(明治元年)の創業です。1983年に一度店を閉じ、15年後の1998年に五代目の小泉聡さんが再開しました。

小泉麹屋では、どんな麹をつくっていますか?

米麹のほか、小麦麹、大麦麹、もち麦麹、胚芽米や玄米の麹をつくっています。大豆の麹(豆麹)は試験中です。

麹を初めて使うなら、何から始めればよいですか?

小泉さんが勧めるのは、麹と水と塩でつくる塩麹で、肉や魚を漬けてから調理する使い方です。炊飯器でつくる甘酒もすすめていました。

味噌づくりは教えてもらえますか?

店舗での味噌講習会を月に25日ほど開いており、定番の米味噌は3kgで5,150円です(公式サイトの案内)。オンラインの講習会や、学校などへの出張講習もあります。日程は公式サイトの講習会のページで案内しています。

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