蕎麦屋や料亭で、黒っぽい粉の入った小さな木筒を見かけたことはないでしょうか。七味のようでいて、色がまるで違う。あれが「黒七味」です。
同じ七味と名がついていても、赤い七味唐辛子とは味の設計から違います。違いは配合ではなく、原料に加える手間のほうにあります。
違いは「炒って揉み込む」工程にある
一般的な七味唐辛子は、唐辛子や山椒、陳皮、胡麻といった薬味をそれぞれ整えたうえで、混ぜ合わせて仕上げます。江戸の薬研堀で生まれた元祖の配合も、7種の薬味を調合するという考え方に立っています。
黒七味は、ここに工程がひとつ加わります。白胡麻や山椒、唐辛子などの原料を丁寧に炒り、そして揉み込む。この手間を惜しまず繰り返すことで、粉はしっとりと湿り、ほかにはない香ばしさをまといます。
つまり、混ぜて作るのが七味、炒って揉み込んで作るのが黒七味。工程の差が、そのまま味の差になっています。
黒くなるのは着色ではなく製法の結果
黒七味の色は、何か黒い材料を足したものではありません。炒った原料を揉み込む過程で、胡麻の油分が全体に回り、粉がしっとりと色を深めていきます。色は目的ではなく、製法に付いてくる結果です。
そしてこの製法は、味の性格も決めています。赤い七味が辛さと香りの両方を立てる調味料だとすれば、黒七味は辛さを前に出さず、香りで味わわせる薬味です。ひと振りで料理を辛くするのではなく、香ばしさをかぶせる。だから、いつもの七味と同じ量を振ると、香りが強く出過ぎることがあります。
原了郭——祇園三百年、一子相伝の技
この黒七味を生んだのが、京都・祇園の原了郭です。元禄の頃に香煎(こうせん)の老舗として暖簾を掲げ、以来三百年あまり、一子相伝で技を受け継いできました。
炒り、揉み込むという工程は、機械で置き換えにくい部分を多く残しています。手間の量がそのまま味に出る作りだからこそ、一子相伝という形で残ってきたのでしょう。
木筒に納められた5gという小さな姿もまた、京の美意識そのものです。うどんや湯豆腐にほんのひと振りで、料亭の香りが立ちのぼります。
使い分けと選び方
- 黒七味:うどん・そば・湯豆腐に、食べる直前に少量。香りを味わう場面に
- 赤い七味:豚汁・焼き鳥・漬物など、辛さと香りの両方を足したい場面に
- 一味唐辛子:純粋に辛さだけを足したいとき
- 黒七味は焼き鳥・天ぷら、味噌汁の仕上げにも合う
- どの薬味も香りは時間とともに飛ぶ。使い切れる量を選び、開封後は早めに使う
七味という同じ名前の内側に、混ぜる技と炒る技がある。次に木筒を見かけたら、その黒さの理由を思い出してみてください。
よくある質問
黒七味と普通の七味唐辛子は何が違うのですか?
大きな違いは製法です。一般的な七味唐辛子は薬味を混ぜ合わせて作りますが、黒七味は原料を丁寧に炒り、揉み込む工程を繰り返します。この手間によって粉がしっとりと黒く色づき、辛さよりも香ばしさが前に立つ薬味になります。
黒七味が黒いのは何かを混ぜているからですか?
着色しているわけではありません。白胡麻や山椒、唐辛子などの原料を炒り、揉み込む工程を繰り返すことで、胡麻の油分が全体に回り、粉がしっとりと黒く色づいていきます。色は製法の結果です。
黒七味はどう使うのがおすすめですか?
香りが持ち味なので、うどん・そば・湯豆腐などに、食べる直前に少量を振るのが向いています。焼き鳥や天ぷら、味噌汁の仕上げにもよく合います。辛さで押す薬味ではないため、一般的な七味と同じ量を振ると香りが強く出過ぎることがあります。

