塩の袋の裏を見ると、「イオン膜」「平釜」「天日」「海水100%」といった言葉が並んでいます。値段も、1kg100円台のものから、100gで千円を超えるものまで幅があります。
同じ「塩」でありながら、なぜここまで違うのか。分かれ目は、にがり成分を残すか、取り除くかという一点にあります。
塩化ナトリウム99%の塩は、なぜ生まれたか
海水に溶けている成分は塩化ナトリウムだけではありません。マグネシウム、カルシウム、カリウムなどが一緒に溶けており、これらをまとめて「にがり」と呼びます。豆腐を固めるあの成分です。
日本の塩づくりは長く塩田で行われてきましたが、1971年(昭和46年)の塩業近代化により、全国の塩田は姿を消しました。代わって主流になったのが、イオン交換膜で海水から塩分だけを効率よく取り出す方法です。この製法では塩化ナトリウムの純度が高く、99%以上に精製された塩が安定して大量に得られます。
保存性が高く、粒が均一で、価格も安い。工業用途にも家庭にも扱いやすい塩です。一方で、にがり成分はほとんど残りません。塩けはまっすぐ強く立ち、料理に入れたときの味の輪郭もはっきりします。
にがりが残ると、味の形が変わる
にがり成分が残った塩は、なめたときの印象が変わります。塩けの奥に、ほのかな苦みや甘み、そして厚みを感じる——これが「まろやか」「塩かどが立たない」と表現される部分です。
差が出やすいのは、少量を振る料理よりも、塩をたくさん使う料理のほうです。煮物や汁物、パスタの茹で塩のように塩が全体にまわる場面では、塩けの立ち方の違いがそのまま料理の印象に出ます。
なお、こうした塩を指して「自然塩」「天然塩」という言葉が広く使われていますが、食用塩の表示に関する公正競争規約では、これらは商品表示として認められていません。だから実際のパッケージには「海水100%」「平釜」「天日」といった製法が書かれています。塩を選ぶときは、イメージを表す言葉ではなく、この製法表示を読むほうが確かです。
本にがり仕立て 五島灘の塩——毎日使える島の塩
長崎県西海市崎戸町。東シナ海に開けた五島灘に囲まれた小さな島で造られるのが「五島灘の塩」です。かつて製塩業で栄えた土地でもあります。
この塩は海水を100%使い、にがり成分を残して仕上げられます。マグネシウムをはじめとするミネラルが溶け込み、塩かどの立たない、深い味わいになります。
もうひとつの特徴は価格です。750g入りで気兼ねなく使える設定なので、パスタの茹で塩にも煮物にも、量を惜しまず使えます。「いい塩は特別な日に」ではなく「いい塩を毎日」へ——量を使う料理でこそ差が出る塩だからこそ、この立ち位置に意味があります。
伝統的な塩づくりを守ってきた蔵という点では、伊豆大島の「海の精 あらしお」も原点にあたる一本です。1971年に塩田が消えたあと、伝統海塩の技術を残そうと製塩を続けた作り手です。
にがりを残した塩の使い方
- 煮物・汁物の塩を置き換える。量を使う料理ほど違いが出ます
- パスタや青菜の茹で塩に。下味の段階から味の土台が変わります
- 塩むすびで。米の甘みと塩の甘みが重なります
- 焼き魚の振り塩、肉の下味に
- 梅干しや漬物の仕込みに。塩が主役の保存食では差が残ります
精製塩が悪い塩だという話ではありません。用途が違うだけです。ただ、毎日の料理で使う一袋を替えてみると、レシピを変えずに味が動くことに気づきます。
よくある質問
精製塩と自然塩の違いは何ですか?
最大の違いは、にがり成分(マグネシウム・カルシウム・カリウムなど)を残しているかどうかです。精製塩はイオン交換膜法などで塩化ナトリウムの純度を高め、99%以上に精製されています。海水から造る塩はにがり成分がある程度残るため、塩けの奥に苦みや甘み、コクを感じやすいとされています。
「自然塩」「天然塩」という表示は使えるのですか?
商品パッケージでは使えません。食用塩の表示に関する公正競争規約では「自然塩」「天然塩」の表示が認められていないため、実際の商品には「海水100%」「平釜」「天日」といった製法や原料の表記が使われます。塩を選ぶときは、この製法表示を見るのが確実です。
にがりを残した塩はどんな料理に向いていますか?
量を使う場面ほど差が出ます。煮物、汁物、パスタの茹で塩など、塩が全体にまわる料理で試すと違いが分かりやすくなります。おにぎりや焼き魚のように塩が主役になる料理でも、塩けの立ち方が変わります。

