鍋の脇に置かれた、緑色の小さな薬味。ひと箸つまむと、柚子の香りと唐辛子の辛みが同時に立ちのぼります。柚子胡椒はいまや全国の食卓にありますが、もともとは九州の山あいで生まれた地域の味でした。
そして名前に「胡椒」と付いているのに、胡椒は一粒も入っていません。
なぜ「胡椒」と呼ぶのか
柚子胡椒の原料は、柚子の皮・唐辛子・塩の3つだけです。胡椒は使いません。
理由は呼び名にあります。九州の一部地域では、古くから唐辛子のことを「こしょう」と呼んできました。柚子とこしょう(=唐辛子)で作るから、柚子胡椒。名前がそのまま原料の記録になっているわけです。
発祥地としてよく語られるのが、大分県日田市の山あいです。柚子の産地であり、冬の寒さが厳しいこの土地で、保存の効く薬味として仕込まれてきたとされています。ただし発祥には諸説あり、九州各地の家庭で似た薬味が作られてきた背景もあります。
すり潰すか、刻むか
市販の柚子胡椒の多くは、柚子の皮と唐辛子をすり潰したペースト状です。均一に混ざり、料理にも溶けやすい形です。
一方で、すり潰さずに刻んで仕込む「粒」の柚子胡椒があります。日田・前津江の川津食品が、昭和38年(1963年)の創業以来つくり続けてきた独自の製法です。粒々の食感が残り、噛んだ瞬間に柚子の香りと辛みがはじけます。ペーストが「溶け込む薬味」だとすれば、粒は「主役になる薬味」に近い性格です。
もうひとつの分かれ目が、青か赤か。まだ青い柚子と青唐辛子で作る「青ゆずこしょう」は、香りが鋭く、辛さもまっすぐ立ちます。熟した黄柚子と赤唐辛子で作るものは、香りがまろやかで色も赤みを帯びます。
産地で香りが変わる
同じ九州でも、産地によって柚子の品種も作り方も違い、香りの出方が変わります。
宮崎県西都市の銀鏡(しろみ)は、県内随一の柚子の産地です。この地で1978年に始まった農業生産法人・かぐらの里は、柚子を育てる人と加工する人が同じ土地にいるため、収穫した柚子をそのまま自社の工場へ運べます。原料は有機の柚子と有機の唐辛子。青ゆずこしょうは、青柚子ならではの鋭い香りが持ち味です。
大分の「粒」と、宮崎の「有機・青」。どちらも柚子胡椒という同じ名前ですが、口に入れたときの立ち方はまるで違います。
柚子胡椒の使い方
- 水炊き・湯豆腐のつけだれに溶いて
- 焼き鳥・唐揚げに添えて、脂を切る薬味として
- 白身魚の刺身に、わさびの代わりに(青が向きます)
- うどん・味噌汁に少量落として香りづけ
- パスタやカルパッチョ、鶏の下味にも
香りが命の薬味なので、開封後は冷蔵で保存し、早めに使い切るのが基本です。まずは鍋の一箸から、産地違いを試してみてください。
よくある質問
柚子胡椒の発祥はどこですか?
九州の山間部で生まれた薬味とされ、なかでも大分県日田市の山あいが発祥地として語られることが多くあります。ただし発祥には諸説あり、九州各地で同じような薬味が家庭で作られてきた背景もあります。商品として世に出した早い例のひとつが、日田・前津江の川津食品です。
柚子胡椒に「胡椒」と付くのに、胡椒は入っていないのですか?
入っていません。原料は柚子の皮・唐辛子・塩の3つが基本です。九州の一部地域では唐辛子のことを古くから「こしょう」と呼んでおり、その呼び名がそのまま名前として残ったとされています。
青柚子と黄柚子の柚子胡椒はどう違いますか?
青柚子(未熟な柚子)と青唐辛子で作る「青ゆずこしょう」は、香りが鋭く辛さも立ちます。熟した黄柚子と赤唐辛子で作る「赤」は、香りがまろやかで色も赤みを帯びます。刺身や鶏には青、鍋や煮込みには赤が合わせやすいという使い分けが一般的です。

