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Interview

1832年創業、群馬・安中「有田屋」。碓氷のトンネルで醤油を寝かせる7代目の200年への支度

現地取材

群馬県安中市の株式会社有田屋を訪ね、7代目の湯浅康毅さんに直接お話を伺って書いた記事です。

群馬県安中市にある有田屋の蔵の外観
群馬県安中市の有田屋
群馬県安中市の有田屋

群馬県安中市で、1832年から醤油をつくってきた「有田屋」。7代目の湯浅康毅さんは「人が作っている感覚がありません。この場所が作っている」と話します。 地元の石を土台にした石蔵で、四季の温度変化と微生物の働きを生かして寝かせる天然醸造。原料を育てる農地から土地とかかわる「あんなかテロワール」。石蔵で最低2年寝かせた醤油を、碓氷隧道(うすいずいどう。隧道はトンネルのこと)でもう一度熟成させる「碓氷隧道仕込天然醸造醤油」。 湯浅さんに、安中という土地と醤油づくりの関わり、家庭での買い方と使い方を伺いました。

安中の石蔵で続ける天然醸造

有田屋は、中山道沿いの安中藩の城下町・安中で、1832年から味噌・醤油の醸造を営んできました。

有田屋のある安中の通り
有田屋のある安中の通り

※もろみは、蒸した大豆と炒った小麦でつくった麹を、塩水と合わせて仕込んだものです。これを寝かせて搾ると醤油になります。

蔵で寝かせているもろみ
蔵で寝かせているもろみ

(以下、特記のない発言は湯浅さんによるものです)

——醤油を寝かせる蔵は、どんな建物ですか。

うちでもろみを寝かせているところは、石蔵って呼ばれています。地元で採れた石を土台に使って、木で建てて、土壁で仕上げた。本当に昔の建物なんですけど、ベースは石でできています。

湯浅さんによると、石蔵は長年の醸造を通じて微生物が息づき、有田屋ならではの発酵・熟成の環境が育ってきた場所でもあります。

もろみを寝かせる蔵の内部
もろみを寝かせる蔵の内部

——天然醸造を続けているのは、どんな考えからですか。

自然の力を使ったものづくりって、すごく素敵だなと思っていて。例えば醤油だったら、原材料を加工すれば早く出荷できるようになるし、醸造環境を変えて温めれば早くできる。ただ、それだと、うち独特の味は出ないと思っています。

うちの場合は、人が作っている感覚がありません。この場所が作っている、というのが一つの要素だと思っていて、自然の摂理に逆らったものを作ることはしたくない。昔ながらのものづくりは、我々だけじゃなくて地域の文化にもなるんじゃないかなと思っています。

公開前の確認で、湯浅さんから次の補足をいただきました。 「醤油の味わいは、その土地の風土や蔵に息づく微生物、原材料、そして代々受け継がれてきた職人の技術と経験が重なり合って生まれます。私たちは自然の力を最大限に生かしながら、その働きを見守り、支えることを大切にしています。」

※有田屋の天然醸造は、人工的な加温によって発酵・熟成を早めることなく、四季の温度変化と微生物の働きを生かし、時間をかけて醤油を醸造するものです。温めて早く仕上げる造り方は、加温醸造(速醸法)といいます。

——家業を続けるうえで、支えになってきたものは何ですか。

やっぱり、お客さんに育ててもらっています。大げさな話じゃなく、お葬式のときに「お父ちゃん、これ好きだったよね」って一緒に供えてもらえる。こんなにうれしいことはありません。3世代にお付き合いさせていただくものづくりというか。

震災で揺れた煙突と、200年への備え

7代目の湯浅康毅さん
7代目の湯浅康毅さん

——東日本大震災のとき、蔵はどうでしたか。

潰れると思いました。裏に大きい煙突があって、それが横に揺れるのを初めて見て、さすがにビビりました。でも幸い、醤油は一本も割れませんでした。

蔵の裏に立つ、れんがの煙突
蔵の裏に立つ、れんがの煙突

——その経験から、考えたことはありますか。

そういうことは避けられません。もしここが全部倒壊してしまったり、火事があったりしたら、と。そこがきっかけで、いま継承を考えて進めていることもあります。

湯浅さんの息子さんは、ほかの会社に勤めたあと蔵に戻り、いまは一緒に働いています。子どもの頃から蔵が大好きで、小学生が見学に来たときには一緒に案内をしていたそうです。海外の展示会にも、2人で出かけています。

原料の畑から碓氷隧道へ。あんなかテロワールの醤油づくり

群馬の畑で育つ大豆と小麦

創業190周年を機に始めた「あんなかテロワール」。テロワールは、ワインの世界で、ぶどうが育つ土地の気候や土壌を指す言葉です。遊休農地を活用し、醤油の原料を育てる農地から土地とかかわっていく取り組みです。安中の原料でつくる醤油は、これから実現を目指している構想です。

直売所に並ぶ、醤油の原料の見本
直売所に並ぶ、醤油の原料の見本

——この取り組みは、どんな考えから始めたのですか。

190周年のときに、200年に足る存在になるために、何が必要かなと考えました。やっぱりファミリービジネス、家業ですから、創業200周年を迎えるにふさわしい家業にしていこうと。

微生物の力を100%借りたものづくりをしているということは、ここの風土がなければ、我々の商品は存在しえない。いま地方にはいろんな課題がありますが、この土地に何かしらのお返しをしたいと思って始めました。

——原料の大豆は、以前から地元のものを使っていたのですか。

地域で限ったものではなくて、良い材料を安定的に確保するということで、東北の豆を使っていました。東日本大震災の時に、その豆が全くなくなってしまって、小粒しかない。本当に困って、使ったことのない小粒の豆でやってみたら、ものすごくよかった。

大豆が大きいと、蒸せるところと蒸せないところが出る。それがもろみに入ると、傷みのもとになります。小粒だと、全体的にふっくら蒸せる。ものづくりをやっていると、そういう機会に巡り合えます。

有田屋の設備と製法では、小粒の大豆のほうが均一に蒸し上がりやすく、仕上がりもよかったということです。思いがけない出来事が、新しい原料の可能性を見つけるきっかけになりました。

——群馬の原料を使った醤油は、もうできているのでしょうか。

「群馬醤油」は、群馬県産の大豆・小麦100%が実現できています。しかも自然栽培で、畑はわりと近くにあります。富岡と、その隣に甘楽というところがあって、そこの農家さんの材料をいただいて作っています。

現在商品になっている群馬醤油は、群馬県産の大豆・小麦でつくっています。富岡市・甘楽町の農家さんとの取り組みは、その一例です。安中産の原料でつくる醤油は、今後の目標です。

大豆の畑
大豆の畑

ワインボトルに詰めて、トンネルでもう一度熟成

有田屋の「碓氷隧道仕込天然醸造醤油」は、石蔵で最低2年寝かせたあと、碓氷のトンネル内で二次熟成させています。熟成に使っているのは、鉄道の廃線で使われなくなった碓氷のトンネルです。

碓氷隧道の内部
碓氷隧道の内部
ワインボトルに詰めた「碓氷隧道仕込天然醸造醤油」
ワインボトルに詰めた「碓氷隧道仕込天然醸造醤油」

——新しいことにも取り組むなかで、変えずにいるのはどこですか。

ものづくりの中で、決して外してはいけないことは守っています。そこが守れていれば、表現の仕方はいろいろできると思っていて。この環境に絶大な信頼があるので、道を外さなければ必ず応えてくれる。新しく見えるかもしれませんが、中心の部分は変わっていません。

——トンネルで醤油を寝かせようと思ったのは、何がきっかけですか。

前からやりたいと思っていました。碓氷峠はバイクでも車でも通っていて、僕にとっては日常の場所でした。

海外には、チーズとかワインだとか、洞窟で熟成させるものづくりがあります。僕は前から食べるのが好きで、親父が世界の料理図鑑みたいなのをずらっと並べていて、それを見るのが大好きでした。

——蔵で仕込んだ醤油を、どのように寝かせているのですか。

一次の発酵・熟成はこの蔵でやって、ボトルに詰めてから持っていく。瓶内二次熟成というやり方です。

あの場所でしかできない醤油を作ろう。それがもう、僕にとっての究極だなという感じです。

ワインボトルに詰めた醤油を、碓氷隧道内の環境でさらに熟成させています。コルク栓を採用するなど、瓶内熟成の方法にも工夫を凝らしています。

ワインボトルに詰めて寝かせている醤油
ワインボトルに詰めて寝かせている醤油

——いま隧道で熟成しているのは、どの醤油ですか。

ワインボトルに入れて隧道で熟成している醤油は、いま中身が群馬醤油です。だから、あれを安中の醤油にして、一番気合を込めた醤油はあれで仕上げたいなと思っています。

現在使っている群馬県産の原料から、将来は安中で育てた原料へ。湯浅さんが目指しているのは、その醤油を碓氷隧道で仕上げることです。

碓氷隧道を背にした「碓氷隧道仕込天然醸造醤油」
碓氷隧道を背にした「碓氷隧道仕込天然醸造醤油」

この商品の売上の一部は、碓氷隧道(碓氷トンネル)の保全に寄付されています。

海外の料理人に伝える、醤油の作り手と使い方

——海外では、どんな人に使ってほしいと考えていますか。

始まりはシンガポールから飛び込んできた話で、もともと輸出には全然興味がありませんでした。ジェトロ群馬にいろいろと教えていただくなかで、料理として使ってもらわないと意味がないと思って。マーケットは小さくても、プロの方に使っていただきたいと思いました。

——料理人に向けて、伝え方で工夫していることはありますか。

海外の展示会用に作ったYouTube動画は、すべてシェフ向けです。一般の方向けだったら醤油何cc、スプーン一杯とか書くんだけど、食材しか入れていない。プロは見れば分かるので。

——醤油の作り手についても、関心を持たれるのでしょうか。

彼らは、人に触れたいんです。どういう思いでそれを作っているのか、どういう場所で作っているのか、そこで何に困っているのか、何に生きがいを感じているのか。そういうストーリーを知った上で使ってくれます。

全然感じない人もいますけど、我々のターゲットは、そういうストーリー性を求める方です。

買うときの量と、豆腐屋さんに教わった食べ方

——初めて使う人に、伝えていることはありますか。

適量を買ってください、と言っています。大瓶はお得な感じがしますが、使い慣れないうちに劣化していってしまう。空気に触れる面が増えれば増えるほど、劣化していくので。

群馬醤油などを70mlの小瓶2本で組んだ「こだわり醤油セット」
群馬醤油などを70mlの小瓶2本で組んだ「こだわり醤油セット」

——使い方で、教わったことはありますか。

こだわりの強い豆腐屋さんから教えてもらったのが、醤油はかけるものではなくて、つけるもの、ということ。豆腐もお箸でとって、醤油にちょっとつけて食べます。

直売所の店内
直売所の店内

「ここの風土がなければ、我々の商品は存在しえない」。取材のあいだ、湯浅さんの話はたびたび蔵の外へ向かいました。石蔵の土台になった地元の石、震災で揺れた煙突、バイクで通っていた碓氷峠。

醤油をつくっているのは人ではなく、この場所だと、湯浅さんは言います。原料をいずれ安中の畑のものにしたいのも、峠のトンネルで醤油を寝かせるのも、同じ考えから来ているように感じました。

いま隧道で寝かせているのは、群馬県産の原料でつくった群馬醤油です。中身が安中の醤油に替わるのは、まだ先のこと。創業200年に向けて、蔵はその途中にいます。

お葬式で「お父ちゃん、これ好きだったよね」と供えられる醤油は、毎日の食卓で使われ続けてきたものです。まずは使い切れる小さな瓶から。冷ややっこで一度、醤油をかけずに、つけて食べてみてください。


【株式会社有田屋】 群馬県安中市安中2-4-24 公式サイト:https://aritaya.com/ オンラインショップ:https://aritaya-onlinestore.stores.jp/ 「碓氷隧道仕込天然醸造醤油」商品紹介:https://aritaya.com/lp/zuido/ 取材:2026年9月19日

よくある質問

「碓氷隧道仕込天然醸造醤油」は、どのようにつくられますか?

石蔵で最低2年寝かせた醤油をワインボトルに詰め、碓氷隧道内でもう一度熟成させています。取材時点でボトルの中身は、群馬県産の大豆・小麦でつくった群馬醤油です。

原料はすべて安中産ですか?

取材時点で隧道熟成に使っているのは、群馬県産の大豆と小麦でつくった醤油です。安中産の原料への切り替えは、今後の目標として伺いました。

初めて買うときは、どのくらいの量を選べばよいですか?

湯浅さんは、使う量に合うものを買うよう勧めています。大瓶のお得さだけで選ばず、日頃どのくらい使うかを目安にしてください。

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