「甘露醤油」という名前を初めて見た人は、砂糖のように甘い醤油を想像するかもしれません。けれど、これは甘さの度合いを表す言葉ではありません。ある製法と、一つの逸話に由来する呼び名です。
その製法とは「再仕込み」。そして逸話の舞台は、山口県・柳井の白壁の町です。
藩主が「甘露、甘露」と唸った
話は江戸時代の天明年間(1781〜89年)にさかのぼります。柳井の醸造家・高田伝兵衛が、新しく造った醤油を岩国藩主・吉川公に献上したところ、藩主は一口なめてこう言ったと伝えられています。「甘露、甘露」。
甘露とは、天から降るという甘い露のこと。以来240年、この地で造られる特別な醤油は「甘露醤油」と呼ばれるようになりました。名前そのものが、味への最上級の賛辞なのです。
正体は「再仕込み醤油」
甘露醤油の中身は、再仕込み醤油です。通常の醤油は、蒸した大豆と炒った小麦の麹を塩水と合わせて仕込みます。再仕込みでは、この塩水の代わりに、すでにできあがった生醤油を使ってもう一度仕込むのです。
醤油で醤油を仕込む——だから原料も手間も、およそ2倍かかります。その分、塩分は濃口醤油より低く抑えられ、旨み成分は濃口を上回ります。「低塩・高旨味」という、贅沢な性質を持つ醤油になるわけです。とろりと濃く、なめると旨みが舌に残る。まさに「甘露」と呼びたくなる味わいです。
白壁の町・柳井と、佐川醤油店
この甘露醤油を今も守るのが、天保元年(1830年)創業の佐川醤油店です。
地下70mから汲み上げる琴石山系の伏流水と、30石の大きな杉桶。昔ながらの道具と製法で、時間をかけて再仕込みを続けています。白壁と格子の町並みが残る柳井で、蔵は資料館としても公開され、旅人を迎えています。
同じ再仕込み醤油としては、香川・小豆島のヤマロク醤油「鶴醤」も知られています。木桶でおよそ4年をかける濃厚な一本で、飲み比べると再仕込み醤油の奥深さがよく分かります。
甘露醤油の楽しみ方
- 刺身:白身魚・イカなど淡白な魚と好相性。とろみが身に絡みます
- 卵かけご飯・冷奴:かけるだけで旨みが際立ちます
- うなぎ:仕上げのひと垂らしでコクが増します
- かけ・つけで:加熱よりも、そのまま味わう料理でこそ真価を発揮します
一度知ると、普段のかけ醤油に戻れなくなる——甘露の名は、伊達ではありません。
よくある質問
甘露醤油とは何ですか?
甘露醤油は「再仕込み醤油」の別名です。できあがった生醤油を、塩水の代わりにもう一度使って大豆や麹を仕込み、二度発酵させて造ります。原料も手間も通常の醤油の約2倍かかり、とろりと濃厚で旨みの深い醤油になります。山口県柳井で藩主が「甘露、甘露」と唸ったという逸話が名前の由来です。
甘露醤油と普通の醤油(濃口)は何が違いますか?
通常の濃口醤油は塩水で一度だけ仕込みますが、甘露醤油は生醤油でもう一度仕込む「再仕込み」です。そのため塩分は濃口より低めに抑えられ、旨み成分は濃口を上回る「低塩・高旨味」になります。加熱調理より、かけ・つけで真価を発揮するタイプです。
甘露醤油はどんな料理に合いますか?
白身魚やイカの刺身のつけ醤油が本命です。卵かけご飯、冷奴、うなぎの仕上げなど「かけて完成する」料理で、とろりとした旨みが引き立ちます。山口県柳井の佐川醤油店「甘露しょうゆ」は、天保元年(1830年)創業の蔵が今も杉桶で仕込む一本です。

