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能登の揚げ浜塩とは:日本でここだけ、500年続く製塩法の物語

能登の揚げ浜塩とは

  • 石川県珠洲市・仁江海岸に残る、日本で唯一の揚げ浜式製塩です。
  • 始まりはおよそ500年前の室町時代末期。加賀藩が「塩手米制度」で製塩を保護したこともあり、奥能登では塩づくりが連綿と続いてきました。
  • 1958年の時点で残っていたのは三軒、1971年の法改正を越えて続いたのは一軒だけでした。
  • 海水を人の手で汲み上げて撒くという、機械化されていない製法が守られています。

砂浜に海水を撒いて、塩を作る。そうやって塩を取っていた場所が、かつては全国の海辺にありました。そのほとんどが、製塩の近代化とともに姿を消しています。

ただ、ひとつの製法だけが能登に残りました。

石川県珠洲市、能登半島の先端に近い仁江海岸。ここに、いまも「揚げ浜式製塩」を続ける塩田があります。

500年、海水を汲み続ける

揚げ浜式製塩の始まりは、およそ500年前の室町時代末期と伝えられています。加賀藩が「塩手米制度」で製塩を保護したこともあり、奥能登の海辺では連綿と塩づくりが続いてきました。

製法は、驚くほど原始的です。

  1. 海から桶で海水を汲み上げ、砂を敷いた塩田に均等に撒く
  2. 太陽と風が水分を飛ばし、塩分が砂に付着する
  3. その砂を集めて海水で洗い、濃い鹹水(かんすい)をとる
  4. 鹹水を平釜で約6時間炊き上げ、さらに約18時間かけて仕上げる

ポンプも電気も使いません。天気を読み、砂を返し、火を守る。この一連の仕事を担う職人は「浜士(はまじ)」と呼ばれます。国の重要無形民俗文化財であり、「能登の里山里海」として世界農業遺産にも数えられる、生きた文化財です。

なぜ、能登だけが残ったのか

揚げ浜式は、能登だけにあった製法ではありません。かつては各地の海辺で行われていました。それが能登にだけ残ったのには、二つの段階があります。

藩が、塩と米を交換した

能登は平地が少なく、米があまり採れない土地でした。そこで加賀藩は「塩手米制度」を敷きます。浜で作った塩を藩が買い上げ、その対価として米を渡す。あわせて他国の塩が領内に入るのを禁じました。

塩を作れば米が手に入る。この仕組みが江戸時代を通して続いたため、奥能登では塩づくりが生業として成立し続けました。

二つの法律を、越えた

明治以降、瀬戸内の大規模な入浜式塩田と、その後の近代的な製塩法に押され、揚げ浜式は各地で姿を消していきます。1958年の臨時塩業措置法の時点で、残っていたのは珠洲と輪島の三軒だけになっていました。

決定的だったのは1971年です。塩業近代化臨時措置法により、イオン交換膜以外の方法で海水から直接塩を作ることができなくなりました。全国の塩田は、ここで一度すべて消えています。

三軒のうち二軒も、このときやめました。続けたのは、珠洲の角花家の一軒だけです。生業としてではなく、文化を絶やさないための保存という形で認められ、技術が引き継がれました。

1969年に製塩用具が国の重要有形民俗文化財に、2008年には「能登の揚浜式製塩の技術」そのものが重要無形民俗文化財に指定されています。いま浜に残っているのは、二度の制度の変わり目を越えてきた技術です。

なぜ、まろやかなのか

揚げ浜塩をなめると、最初に驚くのは「塩辛くない」ことです。

正確には、塩けの向こうに甘みと旨みがあります。理由は、海水に含まれるマグネシウム・カリウム・カルシウムなどのミネラルを取り除かずに仕上げるから。塩化ナトリウムだけを取り出した精製塩が「一つの音」だとすれば、揚げ浜塩は「和音」です。

だから、おにぎりが変わります。トマトが変わります。天ぷらの付け塩にすれば、素材の甘みがすっと立ち上がります。料亭や一流シェフに愛用者が多いのは、この「素材を引き出す和音」のためです。

一袋の塩に、浜の一日が入っている

奥能登塩田村の「揚げ浜塩」は、量産できません。天候に左右され、ひと釜の塩ができるまでに丸一日以上かかります。

小さな一袋には、浜士が海へ下りた朝と、砂を返した昼と、釜の火を守った夜が、そのまま入っています。2024年の能登半島地震では塩田も大きな被害を受けましたが、浜士たちは塩づくりを再開しています。この塩を選ぶことは、500年の文化の「次の一年」を支えることでもあります。

まずは塩むすびで

揚げ浜塩を手に入れたら、最初の一食は塩むすびにしてください。炊きたてのごはんと、この塩だけ。

それが、能登への旅の一歩目になります。

よくある質問

揚げ浜式製塩とは何ですか?

海水を桶で汲み上げて砂の塩田に撒き、太陽と風で濃縮した鹹水(かんすい)を平釜で炊き上げる、日本最古級の製塩法です。約500年前から石川県珠洲市の仁江海岸に伝わり、国の重要無形民俗文化財に指定されています。

揚げ浜塩は普通の塩と何が違いますか?

海水のミネラルをそのまま残して作るため、マグネシウムやカリウムを豊富に含み、塩けの角がないまろやかな旨みがあります。精製塩(塩化ナトリウム99%以上)とは味の複雑さが大きく異なります。

揚げ浜塩はどこで買えますか?

石川県珠洲市の奥能登塩田村(道の駅すず塩田村)で購入できるほか、Amazonなどの通販でも取り扱いがあります。生産量が少ないため、見つけたときが買いどきです。

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