Interview

埼玉・和光「かつをぶし池田屋」。スチームをかけずに削る花かつをと厚削りと、生ハムのような鰹節「食べる削り節」

現地取材

埼玉県和光市の有限会社池田物産(かつをぶし池田屋)を訪ね、池田社長と池田専務に直接お話を伺って書いた記事です。

「鰹節問屋 池田物産」の看板を掲げた店内

スーパーで花かつおを買うとき、何を見て選んでいるでしょうか。袋の値段と量のほかに、手がかりはあまりありません。

埼玉県和光市の「かつをぶし池田屋」(有限会社池田物産)は、1978年(昭和53年)創業の鰹節とだし素材の専門店です。そば店や学校給食にだし素材を卸しながら、「生ハムのような鰹節」と呼ばれる「食べる削り節」を広めてきました。

池田社長と池田専務のお二人に、節の選び方と削り方、食べる削り節を売り始めた経緯、和光の小学校で続けているだしの授業について伺いました。

店の前に立つ池田専務(左)と池田社長(右)
店の前に立つ池田専務(左)と池田社長(右)

そば店への卸から始まった、鰹節の店

和光市白子の「かつをぶし池田屋」
和光市白子の「かつをぶし池田屋」

池田屋さんは1978年8月、埼玉県戸田市で創業しました。現在は和光市白子に店舗と工場を構えています。

創業者は、鰹節を扱う会社から独立して店を始めました。最初の取引先は日本そばの店です。業務用の削り節を加工して納める仕事が店の土台になり、そば店への卸はいまも続いています。

店内の棚の前で、商品を説明する池田社長
店内の棚の前で、商品を説明する池田社長

10か月以上寝かせた枯節を、スチームをかけずに削る

池田屋さんが創業から変えていないことは2つあります。

1つは、熟成期間の長い枯節(かれぶし)を使うことです。枯節は、燻して乾かした節にカビを付け、寝かせて仕上げた鰹節です。池田屋さんは10か月から1年以上寝かせたものを中心に扱っていて、大手との一番の違いはそこだと話します。原料の確保は年々難しくなっていますが、この方針は変えていません。

もう1つは削り方です。一般的な削り節は、節にいったんスチームをかけ、少し乾かしてから削ります。蒸気を当てると、香りやうまみのエキスも一緒に出ていき、水分量も多くなります。そこで先代の時代に、スチームをかけずに削る方法を確立しました。節を洗って1日寝かせ、機械で熱を加えるだけで、そのまま削ります。手で削るのに近い状態で香りとうまみを残すこの製法で、特許も取っています。

「本枯れ花かつを」
「本枯れ花かつを」(写真:かつをぶし池田屋 公式オンラインショップ)

よく乾いているぶん削り節は軽くなり、同じ目方を詰めるには量が要ります。商売としてはつらいところですが、違いは食感に出ます。スチームで水分が残った削り節は、舌の上にごわついた感触が残ります。水分の少ない削り節は、口の中でとろけるように崩れます。一般的な花かつおと比べるなら本枯れ花かつをが一番分かりやすい、と教えてもらいました。

仕入れのたびに、だしを取って確かめる

使う鰹にも基準があります。避けたいのは、塩分の高い鰹と、脂の多すぎる鰹です。脂の多い鰹で作った節は、だしが濁りやすくなります。

ただし、節を見て分かるのは6〜7割までで、残りはだしを取ってみないと分かりません。池田屋さんでは仕入れ時にその節でだしを取り、色や塩分、香りを確かめています。だしの色を見本と見比べ、甘み、塩味、苦み、濁り、生臭さを自分たちの基準で判定します。

だしの色を見比べるための色見本
だしの色を見比べるための色見本

主な産地は鹿児島です。鰹は遠洋漁業で年間を通して獲れますが、春に仕込んだ節のほうがカビの付きがよく、できればその節を使いたいといいます。春にさばいて仕込んだ節が仕上がるのは、夏以降です。

値上がりと不漁で、節を選べなくなった

鰹節の仕入れが、ここ数年で難しくなりました。以前は産地の職人が作り置きした節から選べました。いまは値段が上がりすぎて、買うと約束しないと作ってもらえないこともあり、約束した節が仕上がってみたら好みの魚ではなかった、ということも起こります。脂の少ない鰹が減り、獲れる場所もずれてきました。今年は鰹と並んで節にするさば・そうだの漁獲量も激減しているそうです。

さば削りなど、節の種類ごとに並ぶ削り節
さば削りなど、節の種類ごとに並ぶ削り節

節の仕上げ方も一通りではありません。業務用まで含めると20種類ほどあり、手間のかけ方で味も値段も変わります。売り場では同じ花かつおとして並んでいても、原料はそれぞれ違います。

売れなかっただし素材と、「食べる削り節」

食べる削り節を池田屋さんが売るようになったきっかけは、マルシェへの出店でした。

十数年前からマルシェが各地で開かれるようになり、池田屋さんも青山のファーマーズマーケットなどに出店しました。ところが、だし素材だけを並べてもほとんど売れません。好きな人はいても、出店料が出ないほどだったそうです。料理をしない人でも食べられるものを置いて、そこからだしに引き込めないか。そう考えて店頭に出したのが食べる削り節でした。

「生ハムのような鰹節 食べる削り節」
「生ハムのような鰹節 食べる削り節」

販売を続けていく中で価格を少しでも抑えられるうま味調味料を入れる案も出ましたが、ブランド価値として入れないことを選択しています。のちに、醤油などの味付けをしないタイプも作りました。

お客さんの反応がはっきり変わったのは、和食がユネスコの無形文化遺産に登録された2013年の前後からです。それでも、食べてもらわないと分かってもらえない段階が続きました。

発売当初の商品名は「食べる削り節」のみでした。対面での試食販売で「柔らかいかつお節」「食べる削り節」と色々なキャッチフレーズで声掛けを試したなかで、お客さんの反応が一番大きかったのが「生ハムのような鰹節」という声掛けです。そして、商品のパッケージにもこのキャッチフレーズを入れたところ売り場の棚に置いても手が伸びるようになりました。

広がるきっかけの1つは、浅草にできた全国の物産を集める商業施設でした。そこで様々なバイヤーの目に留まり、取引が広がっていきます。

もう1つは、人気YouTuberの料理研究家さんが2019年ごろにSNS(現在のX)で取り上げたことです。おいしいという短い一言の投稿で、池田屋さんのショッピングサイトに注文が集まりました。おみやげグランプリ2020では、フード・ドリンク部門のグランプリも受けています。

話題になれば、一度は買ってもらえます。ただ、食べておいしくなければ次はありません。食べておいしいと思い、誰かにあげたくなるものを作っている、とお二人は話していました。いまでは1人で10袋買っていく人もいます。

和光市を「だしの町」に。小学校で続けるだしの授業

池田屋さんは学校給食にもだし素材を卸しています。地元の子どもたちに地元のものを使ってほしいと始めて、30年ほどになります。

小学校の給食に納めていると話すと、大人からはほぼ決まって「子どもたちは、そんな贅沢なだしを飲んでいるんですね」と言われます。素材からだしを取ることは、昔は当たり前でした。それがいまは特別なことになっている、とお二人は感じています。

だしの取り方を教える講座も開いています。7〜8年前からぽつりぽつりと続けてきて、ここ数年で依頼が増えました。一昨年ごろからは、和光市内の小学校で家庭科の授業を1時間もらい、5年生にだしを取ってもらっています。5年生は家庭科で火を使い始める学年で、その前段階の授業です。今年は5校ほどを回る予定です。先生同士の紹介で、市外の学校や保護者会から声がかかることもあります。

授業を受けた子どもが家で「だしを買いに行きたい」と話し、親を連れて店に来ることもあります。市民祭りに出したブースには、小学生の男の子が2人でやってきました。どちらの花かつおにするか相談して、自分のお小遣いで買っていったそうです。

目標を尋ねると、和光市を「だしの町」にしたい、という答えが返ってきました。アンケートを取ったら、なぜか和光市の人はだしを取る人が多い、という結果が出る。和光市といえばだし、と言われるところまで行けたら、という話でした。

和洋中に使うだしと、最初に試す一袋

家庭のだしの取り方は、もっと緩くていいと池田屋さんでは考えています。料理店は自分の店の味を守るために決まった取り方を続けますが、家で緩くやるぶんには、それがその家の味になります。

池田屋さんのご家庭では、コンソメを使っていません。洋食も中華も、鰹節や昆布のだしで作ります。

とはいえ、料理に時間をかけられない人もいます。共働きや子育て中ならなおさらです。土日など時間のあるときに作ってもらえればいい、その手前の入口として食べる削り節がある、というのが池田屋さんの考え方です。

だしを取る時間がないときにおすすめするのが「江戸前めんつゆ」です。鹿児島県産の荒節と本枯れ節をブレンドし、北海道産の真昆布と合わせただしに、杉の木桶で熟成させた醤油、米焼酎で仕込んだみりん、奄美諸島産のさとうきびの砂糖を合わせたつゆです。冷たいつゆならつゆ1に水2〜3、温かいつゆなら水8〜9が目安で、薄めずにだし醤油として使うこともできます。

「江戸前めんつゆ」
「江戸前めんつゆ」
左から「食べる削り節」、だしパック、「本枯れ花かつを」
左から「食べる削り節」、だしパック、「本枯れ花かつを」

最後におすすめの商品をお伺いすると勧められたのは、やはり食べる削り節でした。その次が「本枯れ花かつを」です。花かつをは、だしを取るには少し値が張るので、ごはんやおひたしにかけて食べる人が多いそうです。

本枯れ花かつをの袋を開けたら、だしを取る前に一枚、そのまま口に入れてみてください。池田屋さんがお客さんに最初に勧めている食べ方で、スチームをかけずに削った節の、口の中でとろけるような食感を感じることができます。

店舗情報

かつをぶし池田屋(有限会社池田物産)

店舗・工場:埼玉県和光市白子3-18-17
公式サイト/公式オンラインショップ
最初の一袋に:生ハムのような食べる削り節(味付けなしは調味料不使用 生ハムのような食べる削り節「かつお」)
次の一袋に:本枯れ花かつを 70g
だしを取る時間がない日に:江戸前めんつゆ

取材は2026年9月に実施。品揃えや価格は変更になる場合があります。

よくある質問

池田屋さんの本枯れ花かつをは、ほかの削り節と何が違いますか。

10か月から1年以上熟成させた枯節を中心に使い、スチームをかけずに削っています(製法特許 第1311643号)。水分が少ないため、口の中でとろけるような食感になります。

生ハムのような食べる削り節には、何が使われていますか。

公式ショップの表示では、原材料は鹿児島県産のかつお節、米発酵調味料、醤油、砂糖(三温糖)、魚醤です。うま味調味料は使っていません。醤油などの味付けをしない「調味料不使用」タイプもあります。

だしの講座では、どんなことが分かりましたか。

同じ材料のみそ汁を、顆粒だし、だしパック、削り節と昆布の3グループでちょうどいいと思う味に調えたところ、塩分はおよそ1.1%、0.9〜1%、0.7%に分かれました。

池田屋さんの商品は、どこで購入できますか。

和光市白子の店舗と、公式オンラインショップで購入できます。

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