味噌という名前なのに、だしにも汁にも使わず、そのままご飯やきゅうりにのせて食べる味噌があります。刻んだ野菜を混ぜ込んだ「なめ味噌」、金山寺みそです。 千葉県東金市の「小川屋味噌店」は、嘉永元年(1848年)に麹屋として創業し、昭和20年代から金山寺みそをつくっています。 もとは和歌山の食べ物である金山寺みそが、なぜ千葉の東金に根付いたのか。 代表取締役の星野英幸さんと、取締役工場長の石川明男さんに、金山寺みそが東金へ来た道と、味噌汁の味噌との違い、きゅうりの先にある食べ方を伺いました。
金山寺みそが、和歌山から東金へ来た道
——金山寺みそは和歌山の食べ物ですよね。それが千葉の、しかも東金でつくられるようになったのは、どうしてですか。
和歌山から銚子までは、船でつながっていたらしいです。潮の流れでね。それで、和歌山で金山寺みそを食べていた人、つくっていた人たちが、銚子のほうに来ました。
江戸時代は、川や海を使って江戸へ向かうルートがあって、その中継地が栄えていました。佐原が「小江戸」と呼ばれたのもそうです。東金は陸の道で栄えた町だったんですが、それは意外と知られていなくて、自分もこの年になって初めて聞きました。
——東金に根付いたのには、ほかにも理由があったのでしょうか。
気候が和歌山と似ていました。その技術が東金の地に根付いて、こっちで麹をつくり始めたんです。
醤油も、金山寺みそがルーツと言われています。その醤油は、野田や銚子のほうから広がっていきました。でも金山寺みそは、なぜか野田のほうには行かずに、東金まで来たんです。
麹屋から始まった、町の調味料屋
——小川屋味噌店は、麹をつくる店として始まったのですね。
麹から始まって、ほかにもいろいろやっていました。江戸の末期の、コンビニみたいな存在です。町のなかで、調味料関係のものを扱っていたんです。
小川屋味噌店で金山寺みその生産が始まったのは、昭和20年代に入ってからです。いまは金山寺みそのほか、甘酒、塩こうじ、米こうじなども手がけています。
——新しい商品は、どのように生まれているのですか。
お客さんのニーズから考えることが多いです。社長を中心に6〜7人のメンバーがいて、2週間に1回、商品開発のミーティングをしています。
最近は、だしを入れた金山寺みそをつくってみました。だしは流行っているのに、だし入りの金山寺みそをネットで探すと、意外となかったんです。
汁にする味噌と、ご飯にのせる味噌
——金山寺みそと、味噌汁に使う味噌は、どこが違うのですか。
用途が違います。味噌汁の味噌は、汁にするものです。金山寺みそは、ご飯にのせたり、何かと一緒に食べたりします。そのまま食べる「なめ味噌」です。
——つくり方も違うのでしょうか。
金山寺みそは、小麦と大豆を使って麹をつくります。そこに塩水を合わせて発酵させて、もろみにします。もろみのベースができあがったら、野菜を混ぜて、味を調えます。お砂糖を入れるものもあって、いま主に出ているのは甘めのものです。
小川屋味噌店では、小麦の外皮を取り除く「搗精(とうせい)」から自社で行っています。搗精した小麦を一晩水に浸して蒸し、麹菌をつけて2日かけて麹にします。発酵室で熟成させたのち、野菜と水飴を混ぜ、低温の熟成室でさらに寝かせます。
——もとは、どんな人が食べていたものなのですか。
そもそもは、修行僧のような人たちの食事だったと思います。いまは、年配の方がきゅうりやご飯と一緒に食べるイメージが強いです。
きゅうりの先にある、金山寺みその食べ方
——ふだんよく食べている方は、どんなふうに食べていますか。
きゅうりが多いと思います。野菜と合わせて食べる方が多いですね。
——きゅうりやご飯のほかに、おすすめの食べ方はありますか。
グループの飲食店で、ローストビーフに金山寺みそをつけて出してもらったら、おいしかったです。肉や魚を、漬け床のようにして漬けてもいいですね。イカの一夜干しを一日漬けておいて、それから焼いて食べたら、とてもおいしかったです。
パンに塗ってチーズと合わせると、照り焼きのような味になります。
静岡に並ぶ金山寺みそと、全国へ広げるこれから
——金山寺みそは、千葉以外ではどこで食べられているのですか。
不思議なのが、千葉より静岡でよく売れることです。関東のスーパーだと、冷蔵ケースに金山寺みそが1社1品あるかどうかです。でも静岡のあたりの冷蔵ケースには、4社ぐらいの金山寺みそが並んでいます。
静岡では、地元の企業が優先されます。千葉のメーカーが商品を持っていっても、どうしても不利になるんです。そこで、静岡のわさびメーカーさんとタイアップした商品を一度やってみようと考えています。
——昔からの味は、変えていくのですか。
味を今に合わせる、という感じではないです。昔ながらのものも続けながら、年配の方は血圧や塩分を気にされるので、塩分を少し下げたもので、手が止まっているお客さんを拾っていこうと思っています。
——これから、力を入れていきたいことは何ですか。
これまでは関東中心で、あとは静岡。西や北には、ほとんど卸していません。今期から、金山寺みそを全国に展開していきます。工場は製造の力を増やして、販売は取引先を増やしていきます。展示会にも出て、通常の商品と、少し高級な商品の二本立てでいこうと考えています。
——金山寺みそを食べる人は、どの世代が多いのでしょう。
メインは60〜70代だと思います。ただ、40〜50代で「すごく好きなんです」という人の声も聞くようになりました。意外と、食べている人は食べているんだな、と。
——金山寺みそを知らない人には、どこで出会ってほしいですか。
学校給食ですね。
本当に頑張らないと、消えてなくなっちゃう。それぐらい、日常的に食べている方は年配の方が多いんです。
「本当に頑張らないと、消えてなくなっちゃう」。星野さんと石川さんは、金山寺みその今の立ち位置をそう話していました。日常的に食べているのは年配の方が多く、関東のスーパーでは、冷蔵ケースに金山寺みそが1社1品あるかどうかです。
それでも、取材で聞いた話の多くは、これからの商品のことでした。だしを入れた金山寺みそ、塩分を下げた商品、静岡のわさびメーカーとのタイアップ、そして今期からの全国展開。和歌山から船で銚子へ渡り、東金に根付いた味噌を、これまでほとんど卸してこなかった西や北へ届けようとしています。
まずはご飯かきゅうりに、ひとさじのせてみてください。慣れてきたら、ローストビーフに添えたり、イカの一夜干しを漬けてから焼いたりと、お二人が挙げた食べ方も試せます。
【株式会社小川屋味噌店】 住所:千葉県東金市小沼田1662-5 購入できる場所:工場での受け取り(注文は3日前まで)、グループの「房の駅」の店舗・通販(楽天市場店) 取材:2026年9月29日
よくある質問
金山寺みそと、味噌汁に使う味噌は何が違いますか。
味噌汁の味噌は汁にして使います。金山寺みそは、ご飯や野菜にのせてそのまま食べる「なめ味噌」です。小川屋味噌店では、小麦と大豆の麹に塩水を合わせたもろみに野菜を混ぜ、味を調えてつくっています。
金山寺みそは、どうやって食べればよいですか。
定番はきゅうりやご飯にのせる食べ方です。取材では、ローストビーフに添える、肉や魚を漬けてから焼く、パンに塗ってチーズと合わせる食べ方も挙がりました。
和歌山の金山寺みそが、なぜ千葉の東金でつくられているのですか。
和歌山と銚子が船でつながっていて、金山寺みそをつくる人たちが銚子に来たことが始まりだと、取材で伺いました。東金の気候が和歌山と似ていたことも、麹づくりが根付いた理由に挙がりました。