Interview

銀座で味噌を100gから。味噌蔵德兵衞で見つける、自分の好み

現地取材

埼玉県川口市の株式会社田中德兵衞商店を訪ね、田中徳兵衛社長と、松屋銀座店の店長・濱井さんに直接お話を伺って書いた記事です。

松屋銀座の地下2階に掲げられた「味噌蔵 德兵衞」のサイン

初めての味噌を買うなら、少し味を確かめてから選びたい。松屋銀座の地下2階に、その買い方ができる店があります。

「味噌蔵德兵衞」。売り場には、淡い色から黒に近い色まで、全国の味噌が並んでいます。店頭の幟には「味噌三十三種、百グラムよりお量りいたします」の文字。気になる味噌を試食して、100gから買える専門店です。

味噌蔵德兵衞を運営するのは、埼玉県川口市の株式会社田中德兵衞商店です。7代目の田中徳兵衛社長と、松屋銀座店の店長・濱井さんに、味噌を選び、届ける仕事について話を聞きました。

松屋銀座で、ひと口から始める味噌選び

木桶と商品カードが並ぶ、味噌蔵德兵衞の売り場
木桶と商品カードが並ぶ、味噌蔵德兵衞の売り場

桶の前には、それぞれの味噌を紹介するカードが置かれています。産地や原材料、糀歩合、塩分、熟成期間。色の違いを眺めるだけでも、同じ味噌の中にずいぶん幅があることが分かります。

ただ、数字から味を想像するのは簡単ではありません。甘口と書かれていても、自分が好きな甘さなのかは、口にするまで分からない。糀歩合や熟成期間を覚えてから来店する必要はありません。

同店は公式サイトでも、味噌ソムリエがいる店として試食と100gからの量り売りを案内しています。どんな味噌汁が好きか、そのまま野菜につけて食べたいのか。食べたいものから相談できる売り場です。店舗の公式案内

味噌をへらに取り、試食用にすくう手元
味噌をへらに取り、試食用にすくう手元

最初から一つに決めなくても、少しずつ選べます。いつもの味噌に近いものと、少し違うもの。家で使い比べるためにも、100gという量は試しやすい入口になります。

たとえば、いつもの味噌汁を少し変えてみたいとき。売り場では、普段使っている味噌の名前や、甘めと辛めのどちらが好きかを伝えるところから始められます。言葉にしにくければ、試食したものを基準にして、もう少し甘いもの、香りが違うものを尋ねてみる。最初のひと口があると、次に聞きたいことも具体的になります。

家で比べるなら、同じ具の味噌汁に使ってみるのもよさそうです。店頭でそのまま確かめた味が、いつもの食卓ではどう感じられるか。気に入った味噌の名前を覚えておけば、次に訪ねるときの手がかりになります。

全国の味噌がそろっていることに加え、選ぶ途中で相談できる人がいる。そのことが、この店を訪ねる理由になります。

川口の醸造元から、全国の味噌を届ける商店へ

株式会社田中德兵衞商店の田中徳兵衛社長
株式会社田中德兵衞商店の田中徳兵衛社長

田中德兵衞商店は、1871年、明治4年に川口で味噌の醸造を始めました。現在は、全国の味噌などを扱う卸・小売業を営んでいます。

田中徳兵衛社長からは、川口の味噌づくりと川のつながりを教わりました。芝川から荒川へと続く水路で原材料を運び、製品を東京方面へ送る。近くで原料が手に入り、大きな消費地にも近い川口には、味噌を造る条件がそろっていたといいます。

今の街並みからは想像しにくいのですが、田中徳兵衛社長の話では、川口市にも田んぼが広がっていたそうです。味噌の原料を集める場所と、出来上がった味噌を食べる人たち。その間を船で結べたことが、川口の商売を支えていました。川沿いに蔵があった理由を聞くと、味噌の歴史にも、土地の条件が深く関わっていたことが分かります。

田中徳兵衛社長自身にも、子どもの頃に蔵で走り回った記憶があります。暗い蔵に巨大な木樽、芳醇な香りは最高の秘密基地でした。

今では、すでに蔵はなくなっていました。桶の大きさや、そこで働く人の姿を、自分の記憶として語れる人も少なくなっていきます。川口で味噌を造っていた頃の話を、直接知る人から聞き残しておきたい。幼い頃の思い出を伺いながら、そう感じました。

取材では、売り方の変化についても話が及びました。以前は木樽で出荷した味噌を、酒屋などの店先で量り売りしていたそうです。やがて500gや1kgの包装品が広がると、スーパーでも扱えるようになりました。都市化で原料や水を確保する環境が変わるなか、造る側も、売る側も仕事の形を変えていったのです。

同社の公式沿革によると、卸問屋の開業は1953年。1960年に醸造を終え、味噌卸業に専念しました。全国のメーカーと取引を広げ、醸造と卸を並行した時期を経て、仕事を移してきたのです。徳兵衞の歴史

包装品が広まったという話は、普段の買い物にもつながります。決まった量に詰められた味噌なら、買う人が自分で棚から選べる。売り場の形が変われば、味噌を届ける会社に求められる仕事も変わります。田中德兵衞商店は、そうした変化の中で卸へと進み、現在は銀座で量り売りの店も営んでいます。

今の売り場には、自社で一つの味を造る仕事とは違う難しさがあります。蔵ごとに異なる味を理解し、それを初めて食べる人へ渡すこと。仕入れた後の扱い方も、売り場の仕事になります。

売り場で続ける、樽の手入れ

販売員さんは、開店時に味噌の表面の状態を見て、毎日ならしているといいます。樽を並べた後も、手を入れる仕事が続きます。

同じ味噌でも、時間とともに色や風味は変わります。販売員さんは、その日の状態を確かめながら手入れの仕方を考え、お客様におすすめする味噌を選んでいるそうです。

——量り売りで、大切にしていることは何ですか。

濱井さん: 我々が今やっているのは、試食体験と、香りなんですよね。お味噌の香りって、パッケージされてしまうと全く匂わないんですよ。

袋の上からでは、味噌の匂いは分かりません。樽のふたを開けたときに広がる香りは、売り場に立ってはじめて届くものです。

味噌を届けるタイミングについて、りんごに例えた話を伺いました。

——りんご、ですか。

濱井さん: 完熟したものをパッケージングすると、お客さんが手に取るときには発酵が行き過ぎているタイミングのこともあり得るんです。だからどうなるかというと、りんごで言えば青い状態で出すんですよ。流通の過程で赤くなって、ちょうどよくなる。

店頭に並ぶりんごの多くは、木から早めに収穫されたものです。運ぶ間に熟していくことを見込んで、青いうちに出す。届いたときにちょうどよくなるように、逆算されています。

ただ、木の上で赤くなるまで熟したりんごは、やはりおいしい。収穫してから熟したものとは、味が違います。

——味噌も、同じことが起きるのでしょうか。

濱井さん: 私たちは、完熟のりんごを売るということを目指しています。一番いい状態になっているものを販売します。

味噌も、造られてから食べられるまでの間に、少しずつ変わっていきます。色が濃くなり、風味も動く。容器に詰めて出荷すれば、その変化は買う人の手元で進むことになります。

樽で売る場合は、その変化が売り場で起きます。だから毎日ふたを開け、表面をならし、今どういう状態かを確かめる。食べごろを店で見極めて、その一番いいところをすくって渡すことができます。

濱井さん: それをやることによって、旨味が全体的に馴染んでいきます。

同じ商品名でも、カップ入りと量り売りで味が違うと感じるお客様がいたという話も出ました。濱井さんによると、あらかじめ容器に詰めた味噌と、売り場で毎日状態を見ながら手入れを続ける味噌とでは、味わいにも違いが出るといいます。

樽の表面をならし、その日の状態を確かめる。量り売りの味わいには、蔵での味噌づくりに加えて、売り場での手入れも関わっているのだと教わりました。

濱井さんが見つける、その味噌のよさ

田中徳兵衛社長と、松屋銀座店の店長・濱井さん
田中徳兵衛社長と、松屋銀座店の店長・濱井さん

仕入れの入口は、原材料やその原産地を調べること。気になる商品があればメーカーへ問い合わせ、実際の味を確かめます。

蔵へ足を運んで確認できれば理想ですが、迎える側には準備の負担もあります。濱井さんは、小さな蔵ほどその事情も考える必要があると話していました。問い合わせや試食も通じて、仕入れを決めています。

問い合わせでは、どこで販売したいのかを伝えたうえで、味を見せてもらえないかと相談するそうです。商品を取り寄せれば仕入れが決まるわけではありません。原材料について知ったことと、食べて感じたことを合わせ、売り場に置くかを考えます。その途中で、自分の好みだけでは判断できない味噌に出会うこともあります。

——味が自分に合わないこともありそうです。

濱井さん: あります。そしたら、いろんな人に食べてもらうんです。その中でヒットする人もいますし、そしたら、これは特徴なんだということで販売したりですね。

——好みではない、で終わらせない。

濱井さん: 基本的には美味しいと思ったものを売りたいというのが第一なので、商品のいいところを評価する。悪いところを評価するのはやめよう、みたいな感じの評価基準でやっています。

味噌を探している人にとっても、この選び方は心強いと思います。甘さが好きな人もいれば、強い塩気や濃い味を求める人もいる。売る人の好みと、買う人の好みが、いつも同じとは限りません。

添加物をできるだけ使わないものを選びたいという方針も、濱井さんは持っています。ただ、地域の調味料を扱うと、それだけでは選べない場面があります。取材で挙がったのは、甘味料を用いた鹿児島の醤油でした。

原材料を確認しながら、その土地で親しまれてきた味も考える。仕入れには、地域の食文化をどう伝えるかという判断もあります。

濱井さんが迷ったのは、甘味料を使わない醤油を探すことが、その土地の醤油を紹介することになるのか、という点でした。自分が大切にしてきた選び方を、地域の商品にもそのまま当てはめてよいのか。全国の調味料を扱うと、そうした問いにも向き合うことになります。売り場に並ぶ一本には、仕入れる人が考えた過程もあります。

味噌の隣にある、地域の調味料

富山の鰤醤や蛍烏賊醤油が並ぶ棚
富山の鰤醤や蛍烏賊醤油が並ぶ棚

売り場には、味噌のほかに醤油やだし、魚醤も並んでいます。写真の棚にあるのは、富山の鰤醤や蛍烏賊醤油。魚を原料とする調味料にも、土地ごとの違いがあります。

濱井さんによると、海外から訪れるお客様には、地域や商品を調べて指名する方もいるそうです。京都の味噌を探していたり、販売する人が好きな味噌を尋ねたり。若いお客様が、普段の味噌汁をきっかけに、好みの味を探し始めることもあるといいます。

産地から選ぶ人、使う料理から選ぶ人、売り場の人のおすすめを聞く人。詳しい知識がなくても、相談を始めるきっかけは持てます。

なかでも濱井さんが答えやすかったというのが、海外のお客様から、自分の好きな味噌を尋ねられたときでした。日本の人が日頃どんな味噌を使うのか、という関心からの質問だったそうです。産地や銘柄を知らなくても、目の前にいる人の好みなら聞ける。その聞き方は、初めてこの売り場を訪ねる人にもよい入口になりそうです。

おすすめを聞いた後は、自分でも味を確かめられます。同じものを好きになってもよいし、別の味にひかれてもよい。濱井さんが仕入れで大事にしている、商品のよいところを探すという姿勢は、買うときにも参考になります。いつも選ぶ味噌との違いを知るだけでも、次の買い物が少し楽しみになります。

買った後にも聞ける、保存のこと

味噌の量り売りに使う計量器
味噌の量り売りに使う計量器

少量ずつ買えるとしても、家でどう保存するかは気になるところです。濱井さんからは、量り売りの袋を冷凍庫に入れると、味噌を取り出しやすくなるという話がありました。

同店の公式サイトでは、清潔な容器で密閉し、冷蔵庫や冷凍庫で保存する方法を案内しています。空気に触れにくくするため、表面にラップを密着させる方法も紹介されています。味噌のおいしさを保つ保存方法

購入した商品の表示と店頭の案内に従い、開封後は早めに使い切る。保存について迷うことがあれば、選ぶときに一緒に聞いておけます。

蔵が造り、商店が選び、売り場で手渡す

全国の蔵から集まった味噌が並ぶ売り場
全国の蔵から集まった味噌が並ぶ売り場

味を選び、量って渡し、保存の相談にも応じる。売り場で続いているこうした仕事を、会社としてどう捉えているのか。最後に、田中徳兵衛社長に伺いました。

——これから、どうしていきたいですか。

田中徳兵衛社長: 味噌の販売はしているんですけれども、地域のものも大事にして、味の違いも大事にしているつもりです。ただ一番大切にしているのは、味噌や調味料の知識を当たり前にすることですね。

売り場には、いただきものの味噌をどう使えばよいかなど、相談のために訪れるお客様もいるといいます。

時には、相談だけに来る人もいるそうです。初めて買うときには売り場で味を尋ね、家で使ってからは保存や扱い方を聞く。田中徳兵衛社長が話す、知識を当たり前にするという目標は、こうした一人ひとりとのやり取りに近いのだと思います。使い慣れない調味料をもらったときにも、尋ねる相手が思い浮かぶのは心強いことです。

田中徳兵衛社長は、地域の味噌蔵が続くことは、自分たちの商売にとっても欠かせないと話していました。蔵が味噌を造り、商店が選び、売り場で一人ひとりの好みを聞く。川口から続く味噌の仕事は、銀座の量り売りにもつながっています。

かつて自分たちでも味噌を造っていた会社が、今は各地の蔵の味を届けている。田中徳兵衛社長は、その関係を互いに頼り合うものとして捉えています。味の違いを説明してくれる人がいれば、知らなかった蔵の味噌も手に取りやすくなる。買う側にとっての小さな出会いを、売り場で重ねていく仕事です。

初めて訪れるなら、いつも使っている味噌や、好きな味噌汁の具を伝えるところから。気になる味を少し試して、家で使う100gを選んでみてください。

店舗情報

味噌蔵德兵衞 松屋銀座店

運営会社:株式会社田中德兵衞商店

本社所在地:埼玉県川口市末広1-11-2
会社概要

取材は2026年9月に実施。品揃えや営業情報は変更になる場合があります。本文の「33種類」は取材時の店頭の幟の表記に基づきます。

よくある質問

味噌蔵德兵衞の松屋銀座店はどこにありますか?

東京都中央区銀座3-6-1、松屋銀座の地下2階「食品 GINZAフードステージ」にあります。営業日と営業時間は松屋銀座に準じます。来店前に公式案内をご確認ください。

少量から購入できますか? 試食もできますか?

味噌は100gからの量り売りで、試食もできます。味の好みや使いたい料理を売り場で相談しながら選べます。

購入した味噌はどのように保存すればよいですか?

同店は公式サイトで、清潔な容器で密閉し、冷蔵庫や冷凍庫で保存する方法を案内しています。購入商品の表示と店頭の案内に従い、開封後は早めに使い切ってください。

この記事で紹介した一本